最新判例解説(17);最高裁判所平成21年1月22日判決

1 事案
ABは夫婦であり,Aは平成17年11月9日,Bは平成18年5月28日にそれぞれ死亡した。Aが死亡した平成17年11月9日当時,AはY信用金庫(被告・被控訴人・被上告人)甲支店に普通預金口座1口及び定期預金口座11口を有しており,Bは同支店に普通預金口座1口及び定期預金口座2口を有していた。
X(原告・控訴人・被上告人)は,A・B間の子であり,A及びBの共同相続人の一人である。
Xは,Yに,A名義の上記預金口座については平成17年11月8日及び同月9日における取引経過の開示を,B名義の上記預金口座については同日から平成18年2月25日までの取引経過の開示を求めたが,Yは他の共同相続人の同意が無いことを理由に応じなかった。そこで,Xは,Yに対して,取引経過開示請求訴訟を提起した。
第1審(東京地判平成18年11月17日)は,平成17年5月20日の最高裁決定を引用して,X請求には法律上の根拠がないとして棄却した。
控訴審判決(東京高判平成19年8月29日)は,預金契約には委任契約に基づく事務としての性質も有するとして,預金者から取引経過開示を請求された場合は特段の事情がない限り,預金契約に付随する義務として信義則上開示に応じるべきであるとして,請求を認容した。

2 判旨
上告棄却
「預金契約は,預金者が金融機関に金銭の保管を委託し,金融機関は預金者に同種,同額の金銭を返還する義務を負うことを内容とするものであるから,消費寄託の性質を有するものである。しかし,預金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務には,預金の返還だけでなく,振込入金の受入れ,各種料金の自動支払,利息の入金,定期預金の自動継続処理等,委任事務ないし準委任事務(以下「委任事務等」という。)の性質を有するものも多く含まれている。委任契約や準委任契約においては,受任者は委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すべき義務を負うが(民法645条,656条),これは,委任者にとって,委任事務等の処理状況を正確に把握するとともに,受任者の事務処理の適切さについて判断するためには,受任者から適宜上記報告を受けることが必要不可欠であるためと解される。このことは預金契約において金融機関が処理すべき事務についても同様であり,預金口座の取引経過は,預金契約に基づく金融機関の事務処理を反映したものであるから,預金者にとって,その開示を受けることが,預金の増減とその原因等について正確に把握するとともに,金融機関の事務処理の適切さについて判断するために必要不可欠であるということができる。
したがって,金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うと解するのが相当である。
そして,預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。
Yは,共同相続人の一人に被相続人名義の預金口座の取引経過を開示することが預金者のプライバシーを侵害し,金融機関の守秘義務に違反すると主張するが,開示の相手方が共同相続人にとどまる限り,そのような問題が生ずる余地はないというべきである。なお,開示請求の態様,開示を求める対象ないし範囲等によっては,預金口座の取引経過の開示請求が権利の濫用に当たり許されない場合があると考えられるが,Xの本訴請求について権利の濫用に当たるような事情はうかがわれない。」

3 解説
本件判決は,まず,預金契約が単なる金銭消費寄託契約とは異なり委任事務をその内容に含むものであることを理由に,預金者からの取引経過開示請求に応じるべき
信義則上の義務があるとした。その上で,共同相続人の一人であっても,単独で取引経過の開示請求が出来るとして,Xの請求を認めたのである。

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