重要判例解説(24);最高裁判所平成20年2月15日判決

1 事案の概要
Xは,コール資金の貸借又はその媒介等を営む株式会社である。Y1は英国法人であるA社を中心とする企業グループであるAグループに属する会社であり,同グループが日本において情報の収集,処理,分析等を行うために設立した会社である。Y2は,現在,Y1会社の代表取締役であり,後記の有価証券取引が行われた平成13年4月当時は,Y1の取締役の地位にあった者である。
Y2は,Y1の代表取締役であって平成13年当時も取締役であったBと共に,グレナダ法人であるC社を発行者とする,証券取引法上の有価証券である本件証券の募集のため,C社の事業内容等について説明した目論見書(有価証券の募集又は売出し等のためにその相手方に提供する当該有価証券の発行者の事業その他の事項を説明する文書)である本件目論見書をXに交付して,本件証券の取得を勧誘し,あっせんした。また,Y2及びBは,Xからの質問に答えるなどして,C社と共にXに対して本件目論見書の内容について説明をした。
Xは,本件目論見書の記載とY2らの説明を基に本件証券を取得することとし,平成13年4月5日,C社から本件証券を代金30億円で購入した。しかし,本件目論見書の記載及びその内容に関するY2らの説明は,投資資金の送金先,資金の運用方法,担保・保証の有無などの多くの重要な点で,実際の資金の流れや管理等の実態と食い違っており,Xは償還期限から4年以上が経過した平成18年6月の時点でも,本件証券の償還を受けることはなかった。なお,C社については,平成14年7月25日,グレナダにおいて清算手続きが開始されている。
上記の事実関係において,Xは,Y2に対しては法17条に基づき,Y1に対しては,その代表者であったBが法17条の責任を負うとして,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)261条3項,78条2項,民法44条1項に基づき,損害賠償の支払を求めた。
1審は,法17条の責任主体について,証券の発行者,募集若しくは売出しをする者又は引受人又は証券会社等といった有価証券の発行から取得に至る過程に介在する者に限られないと解するとしても,Y2及びBは,Xの本件証券の購入に際して,Xの求めに応じて情報を提供したり,書面を作成していたにすぎないこと,Xは大規模に短資業を営む会社であって本件目論見書の分析は十分可能であったことなどからすれば,Y2及びBは法17条にいう「有価証券を取得させた者」には該当しないと判断して,Xの請求をいずれも棄却した。
原審は,1審とは異なり,Y2らは単なる情報提供にとどまらず,有価証券の取得の勧誘,あっせんをしたという事実を認定した上で,法17条の責任主体は,発行者,有価証券の募集若しくは売出しをする者,引受人若しくは証券会社等又はこれと同視できる者(以下,併せて「発行者等」という。)に限られると解釈した上で,Y2及びAは,法17条にいう「有価証券を取得させた者」に該当しないと判断した。

2 判旨
破棄差戻し。
「(1)原審は,法〔証券取引法を指す〕17条に定める損害賠償責任の責任主体になり得る者は発行者等に限定されると解しているが,同条には責任主体を発行者等に限定する文言は存しない。そして,法は,何人も有価証券の募集又は売出しのために法定の記載内容と異なる内容を記載した目論見書を使用し,又は法定の記載内容と異なる内容の表示をしてはならないと定めていること(13条5項),重要な事項について虚偽の記載があり又は重要な事実の記載が欠けている目論見書を作成した発行者の損害賠償責任については,法17条とは別に法18条2項に規定されていることなどに照らすと,法17条に定める損害賠償責任の責任主体は,虚偽記載のある目論見書等を使用して有価証券を取得させたといえる者であれば足り,発行者等に限るとすることはできない。
(2)これを本件についてみると,前記確定事実によれば,A及びY2は,甲グループに属する会社の代表取締役又は取締役として,Xに対し,重要な事項について虚偽の表示がある本件目論見書を交付して本件証券の取得につきあっせん,勧誘を行い,あるいは乙社とともに本件証券の内容について説明し,その結果X は本件証券を取得するに至ったというのであるから,法17条に定める損害賠償責任の責任主体となるというべきである。」

3 解説
本件で問題となった法17条は,重要な事項について虚偽の表示があり又は重要な事実の表示が欠けている目論見書その他の表示を使用した者の損害賠償責任について定めるものである。この規定の性質について,通説は,不法行為責任の特則であり,ただし書が定めるとおり,故意過失の立証責任が行為者に転換されている点,すなわち過失が推定される点に特色があると解している(なお,証券取引法は金融商品取引法と改められたが,この条文の構造は現在の金融商品取引法17条でも維持されている。)。
目論見書は,有価証券の発行段階において情報開示の際に重要な機能を有する。有価証券届出書の公衆縦覧によって提供される情報の一部を,目論見書を投資者に直接に交付することにより提供するものである。
本件当時,目論見書は,内閣府令で定める事項を完全に記載している限り,必ずしも有価証券の発行者自体が作成したものであることを要しないものと解されていた。もっとも,従来から目論見書制度にはさまざまな問題点が指摘されており,たとえば,目論見書の交付時期について,有価証券を取得させまたは売り付けるのと同時に交付すればよく(証取15条2項),事前に配布する必要はないため,目論見書の機能は十分に果たされていなかった。また,証券取引法16条は,同法15条2項の規定に違反して有価証券を取得させた者に対し,その者が要件に適合した目論見書の交付を受けなかったことによって被った損害を賠償するように定めていた。しかし,判例には,目論見書の不交付と投資者が被った損害との間に相当因果関係を否定したものがあり(東京高判平成12年10月26日判時1734号18頁),民事責任規定が空洞化するおそれがある。
本件当時証券取引法17条は,重要な事項について虚偽の記載があり,または記載すべき重要な事項もくしは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている目論見書を利用して有価証券を取得させた者は,その表示が虚偽であることを知らずに有価証券を取得した者に対して,表示が虚偽であることによってその者が被った損害を賠償しなければならないと規定していた。重要な事項について虚偽の記載があり,または記載すべき重要な事項もしくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている資料を使用して有価証券を取得させた者も,同様の責任を負うものとされた。
同条の民事責任が認められるための要件としては,①重要な事実に関する虚偽記載・記載漏れのある目論見書または資料の使用,②損害の発生,③損害額,④①と②の間の相当因果関係を原告側が立証しなければならない。
虚偽の表示を利用して有価証券を取得させた者は,表示が虚偽であることを知らずかつ相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったことを証明してこの責任を免れることができる(証取17条ただし書)。責任を免れるためには,表示が虚偽であることを知らないのみならず,相当な注意を用いたにもかかわらずこれを知ることができなかったことを証明することを要する。たとえば証券会社が証券界で囁かれている噂を利用して他の者に有価証券を取得させた場合に,その噂が事実と合致しないときは,その噂を自己が作り出したものでないというだけで証券会社はそれによる責任を免れることができない。
証券取引法17条の責任は,不実の表示を使用して有価証券を取得させられた者に対する損害賠償に関するものである。同条の適用においては,取得させる有価証券は自己が所有していたものであることを要しないので,委託取引によって有価証券を取得させた場合でもよいと解された。たとえば,証券会社が虚偽の表示を利用して有価証券の買付けを勧誘し,それに応じた投資者の買付委託を実行して投資者に有価証券を取得させる場合などがこれである。したがって,取得をあっせんした者も同条の適用対象となりえた。
もっとも,従来,有価証券の取得の勧誘やあっせんに際して虚偽の説明等を行った外務員や証券会社等の責任については一般の不法行為に基づく請求がされる事例が多数を占め,法17条を含む証券取引法の損害賠償責任規定に基づき責任を追及する事例は,公刊された裁判例をみる限りあまり見られなかった。学説でも,法17条の責任主体について意識的に論じたものは少なかった。
本判決は,法17条は虚偽記載等のある「目論見書を使用して有価証券を取得した者」と規定しており,責任主体を発行者等に限定する文言は存在しないこと,証券取引法は目論見書の使用者に法定の記載内容と異なる内容の目論見書等を使用してはならないとの義務を課していること,証券取引法は発行者の責任について別に18条2項に規定を置いていることなどを理由に,法17条の責任主体は,虚偽記載のある目論見書等を使用して有価証券を取得させたといえる者であれば足り,発行者等に限るとすることはできないと判断して,原審のような限定解釈を採らないことを明らかにした。
原審は,法17条の責任主体を募集又は売出しの場合の目論見書の交付義務について定めた法15条2項(金融商品取引法15条2項)の責任主体に準じて理解したものということができるが,法16条や法18条を見ても分かるように証券取引法(金融商品取引法も同じ)は損害賠償責任を定めた条文ごとにその責任主体を書き分けていることから,原審の解釈には無理があるように思われる。本判決は,これに加えて,証券取引法及び金融商品取引法が投資者の保護をその目的の一つとしており,しかも目論見書等の開示書類の虚偽記載について詳細な規定を置いていることなどを考慮して,原審のような限定解釈を採用しなかったものと考えられる。原審の論理に従えば,適法に勧誘し売り付けうる者のみが同法17条の虚偽表示のある目論見書等の使用者としての責任を負い,無登録で違法に勧誘し売り付けた者は,たとえその使用した目論見書等に虚偽表示があったとしても,同条の使用者責任を免れるという結果となる。このような結論が不当であることは明白であろう。したがって,原審の解釈を覆した最高裁の判旨は妥当である。これに対して原々審の理由付けは,Y2らがXから手数料等の報酬を受け取っていなかったことを重視するが,勧誘者は勧誘行為につき経済的対価を得る場合が多かろうが,そもそも証券取引法17条はその文言上,虚偽記載のある目論見書等の使用者責任を問われる要件として勧誘行為の経済的対価の獲得を問題とはしていない。
証券取引法17条は,平成16年の目論見書制度の改正に合わせて実質的な修正がなされた。すなわち,「第4条第1項本文若しくは第2項本文の規定の適用を受ける有価証券又は既に開示された有価証券の募集又は売出しについて,重要な事項について虚偽の記載があり,若しくは記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な事実の記載が欠けている第13条第1項の目論見書又は重要な事項について虚偽の表示若しくは誤解を生ずるような表示があり,若しくは誤解を生じさせないために必要な事実の表示が欠けている資料を使用して有価証券を取得させた者」に損害賠償責任の名宛人を限定する改正がなされた。本件のように有価証券の私募のケースは,今後17条の保護から外れる。したがって,本判決の意義も減殺されてしまうことになろう。

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