重要判例解説(27);最高裁判所平成20年6月10日判決

1 事案の概要
本件は,預託金会員制のゴルフクラブの会員である原告が,ゴルフ場を経営していた会社の会社分割により当該ゴルフ場の事業を承継した被告に対し,被告が従前のゴルフクラブの名称を引き続き使用していることから,商号続用者の責任を定めた会社法22条1項が類推適用されると主張して,預託金の返還を求める事案である。
1審及び原審は,会社分割においても旧商法26条1項(現会社法22条1項)が類推適用される余地はあるとしつつ,本件においては,会員に対して会社分割により設立された被告が本件ゴルフ場を経営することとなったことを伝える「お願い書」が送付されたことから,類推適用を否定すベき特段の事情があるとして,これを否定した。

2 判旨
破棄自判。
「預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の事業主体を表示するものとして用いられている場合において,ゴルフ場の事業が譲渡され,譲渡会社が用いていたゴルフクラブの名称を譲受会社が引き続き使用しているときには,譲受会社が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,譲受会社は,会社法22条1項の類推適用により,当該ゴルフクラブの会員が譲渡会社に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当であるところ......,このことは,ゴルフ場の事業が譲渡された場合だけではなく,会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社又は設立会社に承継された場合にも同様に妥当するというべきである。
なぜなら,会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社又は設立会社に承継される場合,法律行為によって事業の全部又は一部が別の権利義務の主体に承継されるという点においては,事業の譲渡と異なるところはなく,事業主体を表示するものとして用いられていたゴルフクラブの名称が事業を承継した会社によって引き続き使用されているときには,上記のような特段の事情のない限り,ゴルフクラブの会員において,同一事業主体による事業が継続しているものと信じたり,事業主体の変更があったけれども当該事業によって生じた債務については事業を承継した会社に承継されたと信じたりすることは無理からぬものというべきであるからである。なお,会社分割においては,承継される債権債務等が記載された分割計画書又は分割契約書が一定期間本店に備え置かれることとなっているが......,ゴルフクラブの会員が本店に備え置かれた分割計画書や分割契約書を閲覧することを一般に期待することはできないので,上記判断は左右されない。」

3 解説
会社法22条1項の制度趣旨については,いわゆる外観信頼保護説が通説・判例であるが,通説・判例に対しては,債権者は外観を信頼して法律行為を行ったわけではない,あるいは,保護の対象となる債権者の善意,悪意が区別されないことの説明が困難であるなどの批判がある。通説・判例の立場からは,事業譲渡があっても,譲渡人の債務は原則として債権者に対する関係では譲受人に移転しないが,商号の続用がある場合,外部的には同一の事業が継続しているように見え,債権者が営業主の交代を知りえないし,また,知っていたとしても債務が事業譲渡によって移転したと考えるのが通常であり,このような債権者の信頼を保護するため,法定責任として営業譲受人の弁済責任を定めたものであると説明される。また,債権者の善意・悪意が区別されないことにつき,外観理論ないし禁反言の法理を基礎とした法定責任であるとする。
他方,通説に反対する立場としては,いわゆる企業財産担保説その他の諸説があるが,近時,詐害的な事業再生から債権保全の機会を保障するための措置である同条2項の通知あるいは登記の措置が採られるよう誘導するためのサンクションであるという見解も説かれている。
会社分割は,営業譲渡と法効果を共にする側面もあるが,会社分割においては,会社分割により生じ得る債権者の不利益を防ぐため一定の手続が執られることとの関係が問題となる。会社分割における債権者保護手続は,物的分割において分割後も分割会社に対し債権の全額を請求できる債権者については,その対象外とされており,本件のように物的分割による会社分割で,ゴルフクラブの預託金返還債務を分割会社に残すというような会社分割においては,ゴルフクラブ会員はその保護対象とならない。また,関係書類が一定期間本店に備え置かれるが,ゴルフクラブ会員がこれを閲覧することを一般的に期待することはできないから,債権者の悪意を擬制する公示力という点において,債務を負わない旨の登記又は通知に及ぶとするには違和感がある。
本判決は,ゴルフ場経営会社の会社分割につき,会社分割において生じ得る債権者の不利益を除去すべく定められた会社分割上の手続の存在は,商号あるいは事業主体を表示する名称の続用という事実関係から生じる債権者の保護の要請を左右するものではないことを前提としたうえで,会社分割にも会社法22条が類推適用されると判断したものといえる。
どのような場合に類推適用を否定すべき特段の事情があるというべきかについて,平成16年最判は,譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否した場合を一例としてあげているが,調査官解説(志田原信三・平16最判解説(民)(上)150頁)には,同最判が上記のような適用除外例を解釈により設けた趣旨について,「預託金会員制ゴルフクラブにおけるゴルフ会員権の法的性質は,ゴルフ場施設の優先的利用権及び預託金返還請求権......等を包含した債権的法律関係であると解されているところ,ゴルフ会員権の柱となる2つの権利のうちの一方が否定された以上,他方も否定されるのではないかという疑念を抱くのが合理的だからである」と説明されている。
本件において,会員に送付された「お願い書」には,被告が会員に対する預託金返還債務を引き受けなかったという記載はもちろん,本件クラブの会員が株式への転換に応じない場合にゴルフ場施設の優先的利用ができなくなる旨の記載もなかったことから,本判決は,このような「お願い書」の記載内容からは,被告が本件クラブ会員に対する債務を引き継がなかったことを明らかにしたものと解することはできないとして,類推適用を否定すべき特段の事情があるとはいえないと判断した。

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