重要判例解説(28);最高裁平成19年12月4日第三小法廷決定

1 事案の概要
Aは,Y所有の土地(本件土地)とこれに隣接するZ所有の土地(本件隣接土地)をそれぞれ賃借し,両土地にまたがって建築されている建物(本件建物)を所有していたが,本件建物は競売に付され,Xが,本件建物を競売により買い受けた。
Xは,本件土地の借地権設定者であるYに対し賃借権の譲渡の承諾を求めたが,Yがこれを承諾しなかったため,借地借家法20条1項に基づき,裁判所にその承諾に代わる許可を求める旨の申立てをしたところ,Yは,同条2項により準用される同法19条3項に基づき,自ら本件建物の譲渡及び本件土地の賃借権の譲渡を受ける旨の申立て(優先譲受けの申立て)をした。なお,本件隣接土地の借地権設定者であるZは,同土地に設定された借地権のXへの譲渡を承諾している。
原々審は,Xが本件土地の賃借権の譲渡を受けることを許可する一方,Yの優先譲受けの申立てを却下した。これを不服としたYは抗告した上,原審において,本件建物の譲受け及び本件土地の賃借権の譲受けに加え,さらに,本件隣接土地の賃借権の譲受けをも許可するようその申立てを拡張した。しかし,原審は,「借地借家法20条2項,19条3項の規定は,借地権設定者に自ら設定した賃借権を回収する機会を与えたものであるから,Yが譲渡を受けることができるのは,Yが賃借権を設定した本件土地上に存する建物部分と本件土地の賃借権に限られる。Yが所有していない本件隣接土地の上にある建物部分についてまでYが譲渡を受けることを許容し,その結果として,Zの承諾なく本件隣接土地の借地権をYに譲渡させ,競売により本件建物全体を買い受けたXの賃借権譲受許可の申立てを認めないのは,YとXの利害調整の観点から妥当なものとはいい難く,借地借家法の予定しているところではない。Yとしては,本件隣接土地の賃借権をYが譲り受けることについてZの承諾等を得ない限り,本件建物全体の譲渡を受ける旨の裁判を求めることは許されないが,Zはこれを承諾していない。よつて,Yの申立ては不適法である」などとして,Yの抗告を棄却した。

2 決定要旨
抗告棄却。
「賃借権の目的である土地と他の土地とにまたがって建築されている建物を競売により取得した第三者が,借地借家法20条1項に基づき,賃借権の譲渡の承諾に代わる許可を求める旨の申立てをした場合において,借地権設定者が,同条2項,同法19条3項に基づき,自ら当該建物及び賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをすることは許されないものと解するのが相当である。なぜなら,裁判所は,法律上,賃借権及びその目的である土地上の建物を借地権設定者へ譲渡することを命ずる権限を付与されているが(同法20条2項,19条3項),賃借権の目的外の土地上の建物部分やその敷地の利用権を譲渡することを命ずる権限など,それ以外の権限は付与されていないので,借地権設定者の上記申立ては,裁判所に権限のない事項を命ずることを求めるものといわざるを得ないからである。」

3 解説
借地借家法19条は,その1項において,土地賃借人(以下「借地人」という)が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において,第三者が賃借権を取得しまたは転借しても借地権設定者(以下「地主」という)に不利となるおそれがないにもかかわらず,地主が賃借権の譲渡・転貸を承諾しないときは,借地人の申立てにより,地主の承諾に代わる許可の裁判をすることができるとするが,その3項において,この申立てがあった場合において,裁判所の定める期間内に地主が自ら建物の譲渡および賃借権の譲渡・転貸を受ける旨の申立てをしたときは,1項の規定にかかわらず,裁判所は,相当の対価および転貸の条件を定めて,これを命ずることができるとして,地主に優先譲受申立てを認めている。地主の優先譲受申立ての制度は,地主にとっては,土地所有権の完全性を取り戻すための手段であり,借地人にとっては,借地人の投下資本の回収方法の1つとして機能する。また,この3項の規定は,借地上の建物を競売または公売により第三者が買い受け,買受人が地主の承諾に代わる許可の裁判(借地借家20条1項)を求めたときにも,準用されている(同条2項)。
借地上の建物が,複数の借地上にまたがっている場合や借地と借地権者の所有地とにまたがって建築されている場合において,またがり建物全体を対象とした優先譲受けの申立てをすることが許されるかについては,下級審裁判例や学説の見解が分かれていた。
すなわち,①借地上に建物の大部分が存在するまたがり建物につき,当該建物全部を借地権設定者に譲渡するよう命じた上で,借地権設定者に対し,借地上に存在する部分以外の建物の除去を命じ,他方,借地上に建物の約5分の1しか存在しないまたがり建物につき,借地上に存在する部分のみを借地権設定者に譲渡するよう命じた上で,借地権設定者に対し,借地上に存在する部分とその余の部分とを構造上区分し,区分所有権の客体たるに適した状態にすべきことを命じた裁判例(横浜地決昭44.8.22下民20巻7=8号594頁),②またがり建物の場合でも,借地権者は建物一棟全部を譲渡の客体とするほかなく,その建物一棟全部の交換価値の実現を図ろうとしている以上,借地権設定者をして建物一棟全部の対価を支払ってこれを買受けさせるのが,双方の利害調整の観点から公平かつ妥当であって,借地法9条ノ2第3項(借地借家法19条3項に相当する規定)の趣旨に合致し相当であるなどとして,優先譲受けの申立てを認める見解(東京高決昭46.3.23下民22巻3=4号280頁),③原則として,優先譲受けの申立ては認められず,隣地の所有者が優先譲受けの申立てを承諾しているような場合に例外的に認められるとする見解(大阪地決昭44.7.14下民20巻7=8号484頁)などが見られ,借地非訟の裁判実務上は,③の見解が有力であった。
本件は,本件隣接土地の所有者ZがXへの借地権譲渡を承諾している事案であって,本決定のように,Yに不利益を与えるおそれがなければ,Xに承諾に代わる許可を与え,Yの優先譲受申立てを拒否するのが適切な事案であった。本件隣接土地の所有者ZもXへの借地権譲渡を承諾していなかった場合は,XはZとYとを相手方として承諾に代わる許可の裁判を求めることになるが,ZとYが共同して優先譲受けの申立てをすれば,ZとYとが建物およびそれぞれの賃借権を買い受けることになる(建物は,それぞれの土地上に存在する建物部分の面積に比例した共有となる)。本件とは逆に,ZがYに本件隣接土地上の賃借権の設定について承諾を与えていたときは,XのZとYとを相手方とする承諾に代わる許可の裁判の申立てに対して,ZとYとが共同して優先譲受けの申立てをし,ZとYとが建物およびそれぞれの賃借権を買い受け,その後,AZが支払った代金をYがZに支払うことによって,Yが建物所有権全部を取得し,敷地の一部(本件隣接土地)をZから賃借するという形で決着が図られよう。
結局,競売または譲渡により第三者が取得する借地人の建物が,所有者を異にする複数の土地にまたがって存在し,一方の土地については土地利用権(土地賃借権の譲渡につき地主の承諾または法定地上権の成立)に基づいて建物の存続が認められるが,他方の土地については,地主Yが土地賃借権の譲渡を承諾せず,優先譲受けを主張する場合,建物買受人または借地人の申立てにかかる承諾に代わる許可の裁判を優先させるべきか,地主の優先譲受けおよび賃借権の譲渡または設定もしくは法定地上権の取得の許可を認めるべきか,ということになる。後者を認めても,建物取得者が隣地の所有者に変わるだけであるから,建物所有者にとって特に不利になるわけではないともいえる。しかし,本決定は,本件各決定は,裁判所は,法律上,賃借権及びその目的である土地上の建物を借地権設定者へ譲渡することを命ずる権限を付与されているが,賃借権の目的外の土地上の建物部分やその敷地の利用権を譲渡することを命ずる権限など,それ以外の権限は付与されていないので,賃借権の目的である土地と他の土地とにまたがって建築されている建物についてされた優先譲受け申立ては,裁判所に権限のない事項を命ずることを求めるものといわざるを得ないから不適法であるとして,これを却下した。
なお,優先譲受け申立てが認められないことにより借地権設定者が不当な不利益を被る場合には,賃借権譲渡(譲受)許可の裁判をする際に,付随処分において,財産上の給付額を高額に決めたり,かかる不利益が存在することを「その他一切の事情」として考慮し,賃借権譲渡(譲受)許可の申立てそのものを棄却することによって,その不利益を除去することも考えられよう。

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