重要判例解説(30);最高裁平成20年4月14日第一小法廷判決

1 事案の概要
Xらは,電力会社Y1が原発建設を計画している山口県熊毛郡上関町長島の四代地区の世帯主である。Y2らはXら以外の全世帯主である。原発建設用地の一部である本件土地は,土地台帳に四代組の所有とする記載があり,その後,不動産登記簿表題部所有者欄にも四代組と記載された。本件土地は,明治24年10月当時,長島の四代部落の世帯主を構成員とする入会集団である四代組の入会地として,その構成員である四代部落の世帯主全員の総有に属していたものであり,四代地区の世帯主は,本件土地について共有の性質を有する入会権を有していた。本件土地は,昭和30年代ころまでは入会地として利用されていたが,遅くとも昭和50年ころには使用収益する者はいなくなった。他方,四代地区においては,明治24年10月ころ,四代組と同じく四代地区の世帯主で構成される「四代区」という権利能力なき社団が成立し,現在に至っている。
Y1は,上関原発の建設を計画し,平成10年9月,建設用地の取得を始めた。同年12月,四代区の区長であるY2は,同区の役員会の全員一致の決議に基づき,Y1との間で,本件土地を何らの権利の負担のないものとして中国電力所有の土地と交換する旨の契約を締結し,Y1ヘの所有権移転登記手続を済ませた。
Xらは,本件入会権の対象となっている本件土地の処分には,入会権者全員の同意が必要であり,Xらの同意なしにされた本件交換契約は無効であり,自らは本件土地について入会権を有する入会集団の構成員であるなどと主張した。
第1審は,本件土地についての共有の性質を有する入会権の存在と,Xらがその入会集団の構成員たる地位を有することを肯定し,Xらの請求を一部認容した。これに対し,原審は,①本件土地の入会権は時効により消滅したと判示するとともに,②四代部落の世帯主を構成員とする四代区には,その役員会の全員一致の決議によってその財産を処分し得る慣行が存在し,本件土地は四代区の役員会の決議に基づいて有効に処分されたとして,Xらの請求を棄却すベきものとした。

2 判旨
上告棄却。
(ⅰ )「S区は権利能力なき社団であり,本件各土地がS部落の世帯主の総有に属するものであることは,S区の成立の前後を通じて変わりがないことが明らかであるから,本件各土地を管理処分する権能がS 区に帰属することになったとしても,S部落の世帯主が有していた本件入会権が共有の性質を有しないもの......になったということはできない。......原審の......消滅時効の判断は,前提を欠く」。
(ⅱ )「S部落においては,......Y2がS区規約を作成した平成10年ころには,既に本件各土地の処分,すなわち,本件入会権の処分については,他の旧S組財産と同じくS区の役員会の全員一致の決議にゆだねる旨の慣習(以下「本件慣習」という。)が成立していたものと解するのが相当である。」
(ⅲ )「本件慣習の効力について検討すると,民法263条は,共有の性質を有する入会権について,各地方の慣習に従う旨を定めており,慣習は民法の共有に関する規定に優先して適用されるところ,慣習の効力は,入会権の処分についても及び,慣習が入会権の処分につき入会集団の構成員全員の同意を要件としないものであっても,公序良俗に反するなどその効力を否定すべき特段の事情が認められない限り,その効力を有するものと解すべきである。」
(反対意見)2名(横尾和子裁判官・泉德治裁判官)の反対意見は,①「明治24年10月にS区が権利能力なき社団として成立したという事実は,当事者も主張していない事実である」こと,②「村会が区会条例を議決したことからS区が権利能力なき社団として成立したと認定するのは,著しく合理性に欠ける」こと,③ S組名義の土地売却事例に関
する原審の認定事実は本件「慣行の存在を証明する間接事実として重要視することはできない」こと,④「S区規約は,S部落の世帯主全員の決議や確認の下に作成されたものではなく,臨時総会の開催を断念したY2が,......登記のため司法書士の指導の下に急きょ作成したものにすぎないのであって,S区規約の上記記載から,S区の財産の処分についてはS区の役員会の全員一致の決議による旨の慣行があると認定するのは相当でない」こと,⑤Y2がS区の臨時総会を開催しようとしたという「認定事実は,S部落の最高意思決定機関は常会(総会)ではないかとの疑いを抱かせるものである」こと,⑥「総有に属する土地について,構成員の総有権そのものを失わせてしまうような処分行為は,本来,構成員全員の特別な合意がなければなら」ず(最判昭和55・2・8集民129号173頁を引用),「同処分行為を役員会の決議にゆだねるというのは例外的事柄に属するから,その旨の慣行が存在するというためには,これを相当として首肯するに足りる合理的根拠を必要とする」ことなどを指摘し,原判決による本件慣行の認定は「経験則に違反する不合理なもの」であり,「S部落において,本件慣習が成立していたとすることはできない」とする。

3 解説
原審の入会権の時効消滅に関する判断は,四代組と四代区とが違う権利主体であるという前提に立ち,明治24年10月ころに四代区が成立した際に,本件土地を所有し,管理処分する権能は,四代組ではなく四代区に帰属することになり,それに伴って,四代部落の世帯主が有していた本件入会権は,共有の性質を有しない入会権へ変化したと認め,共有の性質を有しない入会権は消滅時効の法理に服するから,本件土地の入会権は,現在では時効により消滅した,というものである。これに対して,本判決は,入会権の時本件土地が四代部落の世帯主の構成員の総有に属するものであることは,四代区の成立の前後を通じて変わりがないことを指摘して,是認することができないとした。
四代区の役員会の決議に基づく処分に関する判断に対しては,本判決は,四代地区において,平成10年ころには,本件入会権の処分につき四代区の役員会の全員一致の決議にゆだねる旨の慣習が成立していたものと解されると判断した。そして,共有の性質を有する入会権の処分につき入会集団の構成員全員の同意を要件としない慣習の効力について,この慣習の有効性を肯定した。その上で,本件土地について平成10年12月にされた交換契約は,四代区の役員会の全員一致の決議に基づいて交換契約が締結されたものであるから,本件慣習に基づくものとして有効であり,中国電力は何らの権利の負担のない本件土地の所有権を取得し,四代部落の世帯主は中国電力所有の土地と引換えに本件入会権を喪失したと判断した。これは,通常の共有であれば共有地の処分には共有者全員の同意が必要であるが,共有入会権では民法263条により慣習が優先し,全員一致によらない処分の慣習も公序良俗に反するなど特段の事情がない限り有効であるとするものである(公序良俗違反の入会慣習について最判平成18年3月17日民集60巻3号773頁参照)。
一般に,入会権の処分や入会地の利用形態の変更には,原則として入会集団の構成員全員の同意を要すると解されているが,この入会権の処分等につき多数決によらずに全員一致によるという原則については,これを厳格に貫こうとする見解もみられる。
しかし,入会権は慣習上の権利であって,その内容も各地方の慣習によって定まるものであり,民法の入会権に関する規定も,入会権の処分について慣習が及ばないと規定するものではない。また,判例上,総有という共同所有形態は,権利能力なき社団における財産の所有関係においても妥当するものとされ(最判昭和32年11月14日民集11巻12号1943頁,最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁,最判昭和47年6月2日民集26巻5号957頁),入会集団が権利能力なき社団であるという場合も肯定されていること(最判平成6年5月31日民集48巻4号1065頁)からすれば,総有という構造から入会権の処分が全員一致で決定されなければならないということが直ちに導かれるものでもない。したがって,入会権の処分についても,入会集団の構成員全員の同意を要件としない慣習の存在が認められれば,それに従うことになると考えられる。もっとも,慣習の効力については,慣習が及び得る範囲の問題とは別に検討される必要があり,例えば,その内容が公序良俗に反するなどの事情があれば,効力が否定されることになる。この場合,反対意見が引用する最判昭和55年2月8日民集34巻2号138号は権利能力なき社団の財産処分につき全員一致を原則とするが,入会集団を権利能力なき社団とすることと多数決原則との関係が問題となるであろう。
このように,本判決は,入会権に関して適用される民法263条所定の「各地方の慣習」の範囲として,入会権の処分に関するものもそれに含まれることを前提に,入会集団の構成員全員の同意を要しないとする慣習の効力について判断を示したものである。

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