重要判例解説(32);最高裁平成20年1月18日第二小法廷判決

1 事案の概要
Xは,貸金業者Yとの間で,平成2年9月3日から平成7年7月19日までの間,リボルビング式金銭消費貸借にかかる基本契約①(融資限度額50万円,利息年29.2%,遅延損害金年36.5%)に基づいて,金銭の借入れと弁済を行った。制限超過部分を元本に充当されたものとして計算すると,この時点における過払金は42万9657円となる。Xは,Yとの間で,平成10年6月8日から平成17年7月7日までの間,リボルビング式金銭消費貸借にかかる基本契約②(融資限度額50万円,利息年29.95%,遅延損害金年39.5%)を締結に基づいて,金銭の借入れと弁済を行った。制限超過部分を元本に充当されたものとして計算すると,この時点における過払金は27万2973円となる。
Xは,二つの基本契約に基づく取引を一連のものとみて,これに係る各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金(不当利得)が生じていると主張して,被告に対し過払金の返還を請求する事案である。
第1審は,二つの基本契約は3年間の取引中断期間があることから,別個の取引であると判断し,基本契約①に基づく取引の終了によって発生した不当利得返還請求権は,10年の経過によって時効消滅したとして,基本契約②に関する不当利得返還請求権(β)だけを認容した。これに対して,原審は,本件での2つの取引は実質的に一体だと判断し,過払金の元本充当に関するXの主張を認めた。Yから上告受理の申立て。

2 判旨
破棄差戻し。
「同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず,その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第1187号同19年2月13日第三小法廷判決・民集61巻1号182頁,最高裁平成18年(受)第1887号同19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁参照)。そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である。」
本件においては,基本契約Ⅰと基本契約Ⅱとでは,利息,遅延損害金の利率が異なるなどの事情があり,原審が認定した事情のみからは,特段の事情が存在すると解することはできない。

3 解説
本件で問題となるのは,同一の貸主と借主との間で継続的な金銭消費貸借に係る二つの基本契約が時を隔てて締結され,各契約に基づく取引が行われた場合に,それらの取引が「一連のものであり,実質上一個のもの」と観念できるかどうかという点にある。一連一体のものであるとした場合,全体として過払金を充当できることになり,また,後の取引が継続する限り,消滅時効は完成しないことになる。
まず,本判決では,最判平成19年2月13日民集61巻1号182頁,最判平成19年6月7日民集61巻4号1537頁が引用されており,このうち,上記2月13日判決は,基本契約が締結されていない二つの貸付けがされている場合に,第1の貸付けに係る債務の弁済によって発生した過払金をその後に発生した第2の貸付けに係る債務に充当することの可否が問題となった事案に関するものであり,また,上記6月7日判決は,カードの利用による継続的な金銭の貸付けを予定した基本契約が締結され,同契約に基づく借入金債務の弁済により過払金が発生した場合にこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解された事案に関するものである。そして,これらの判決では,弁済により生じた過払金をその後に発生する債務に充当するには,当事者間の充当に関する合意など特段の事情が必要であるとの一般的見解が示された。本判決は,二つの基本契約が時を隔てて締結され,それぞれの取引が行われたが,両者の取引の間に一定の空白期間が存在するという事案において,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金は,新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないとしたものであって,このような事案においても,最高裁の基本的な考え方が採用されるベきことを明らかにしたものということができる。なお,本件と異なり,過払金発生当時に別の債務が発生していた場合には,その別口債務に過払金が充当される(最判平成15年7月18日民集57巻7号895頁参照)。
次に,本判決は,上記特段の事情に当たる充当の合意の存在を判断するに当たり,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価するためには,①第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,②第1の基本契約についての契約書の返還の有無,③借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,④第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,⑤第2の基本契約が締結されるに至る経緯,⑥第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等が総合的に考慮されることを示した。基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される一連の金銭消費貸借取引においては,当事者は,一つの貸付けを行う際に次の貸付けを行うことを想定しているのであり,複数の権利関係が発生するような事態が生ずることを望まないのが通常であるから,弁済により過払金が発生した場合には,これをその後に発生する新たな借入金債務に充当することを合意しているものと解するのが合理的であるということができ(最判平成19年7月19日民集61巻5号2175頁参照),本判決は,このような判断に基づくものと考えられる。
以上の法理の基礎には,充当は根本的には意思を根拠として認められるという考え方(意思充当説)がある。これは,債務者は通常借入れ総額減少等を望むことから,他の借入金債務に対する弁済の指定を推認しうることが充当の根拠とされる。もっとも,ここでの意思は,擬制的ないし規範的なものであり,現実の意思を問題にするのであれば,いまだ存在していない新債務への充当意思を想定することは困難となる。それだけでなく,既存債務についても,債務者は,債務がすでに制限超過部分の元本充当によって消滅していることなど知るよしもなく弁済し続けるのであるから,そこに別口債務への充当指定の現実の意思を読み込むことは困難である。そのような困難がありながらもここで場合によって充当意思を認める背景には,利息制限法の債務者保護の理念があるが,判例理論は,債務者保護を全うしてはいないと考えられる。

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