重要判例解説(33);最高裁平成20年1月24日第一小法廷判決

1 事案の概要
 A(大正13年生まれ)は,平成8年2月9日に死亡した。その法定相続人は,妻であるB,実子であるX1,Y1及びY2、養子であるX2、Cである。Aの相続について,X1及びX2の遺留分は各20分の1である。
Aは,公証人作成に係る公正証書により,Aの遺産をYら及びBにそれぞれ相続させる旨の遺言をした。
Xらは,平成8年8月18日,Yら及びBに対して遺留分減殺請求権を行使し,Yら及びBがAから前記公正証書遺言により取得した遺産につき,それぞれその20分の1に相当する部分を返還するように求めた。
Xらは,平成9年11月19日に本訴を提起し,遺留分減殺を原因とする不動産の持分移転登記手続等を求めたところ,Y2は平成15年8月5日,Y1は平成16年2月27日,それぞれ第1審の弁論準備手続期日においてXらに対し価額弁償をする旨の意思表示をした。これに対し,Xらは,平成16年7月16日の第1審の口頭弁論期日において,訴えを交換的に変更して価額弁償請求権に基づく金員の支払を求めるとともに,その附帯請求として,相続開始の日である平成8年2月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
 1審は,Xらの遺留分減殺請求を一部認容し,その余を棄却したが,遅延損害金については,XらがYらに対し遺留分減殺請求をした日の翌日である平成8年8月19日からの分を認容した。これに対し,原審は,原告らの遺留分減殺請求を一部認容し,その余を棄却すベきものとしたが,遅延損害金については,判決確定の日の翌日からの分を認容した。

2 判旨
一部破棄自判,一部上告棄却。
「①受遺者が遺留分権利者から遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求を受け,遺贈の目的の価額について履行の提供をした場合には,当該受遺者は目的物の返還義務を免れ,他方,当該遺留分権利者は,受遺者に対し,弁償すべき価額に相当する金銭の支払を求める権利を取得すると解される(......最高裁昭和54年7月10日第三小法廷判決〔民集33巻5号562頁〕,......最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決〔民集51巻2号448頁〕参照)。②また,上記受遺者が遺贈の目的の価額について履行の提供をしていない場合であっても,遺留分権利者に対して遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をしたときには,遺留分権利者は,受遺者に対し,遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求権を行使することもできるし,それに代わる価額弁償請求権を行使することもできると解される(最高裁昭和......51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁,前掲最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決参照)。③そして,上記遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には,当該遺留分権利者は,遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得すると解するのが相当である。④したがって,受遺者は,遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした時点で,遺留分権利者に対し,適正な遺贈の目的の価額を弁償すべき義務を負うというべきであり,同価額が最終的には裁判所によって事実審口頭弁論終結時を基準として定められることになっても(前掲最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決参照),同義務の発生時点が事実審口頭弁論終結時となるものではない。⑤そうすると,民法1041条1項に基づく価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は,上記のとおり遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し,かつ,受遺者に対し弁償金の支払を請求した日の翌日ということになる。」(①~⑤の番号は筆者が挿入したもの)
Xらは,Yらが価額弁償をする旨の意思表示をした後の平成16年7月16日の1審口頭弁論期日において,訴えを交換的に変更して価額弁償請求権に基づく金員支払を求めることとしており,この訴えの変更により価額弁償請求権を確定的に取得し,かつ,弁償金の支払を請求したというべきである。

3 解説
 本判決は,遺留分を侵害する遺贈に対し減殺請求がなされた場合の受遺者の現物返還義務と民法1041条の価額弁償に関して,遺留分権利者の価額弁償請求権の確定時期,および,価額弁償請求権に係る遅延損害金の起算日,という従来論じられていなかった論点につき最高裁として初めての判断を示したものである。
従来の判例の基本的な考え方は、以下のようになっている。すなわち、遺留分減殺請求権の法的性質については形成権説を採用し、これによれば,遺留分権利者は,減殺の意思表示をすることにより,減殺の対象物につき,具体的に算定した割合に基づいて所有権ないし物権法上の共有持分権を取得し,その取得分につき,物権的請求権としての返還請求権ないし移転登記請求権を有することになる(最判昭和51年8月30日民集30巻7号768頁)。そして,受遺者は遺留分権利者に帰属した目的物を現物で返還することを要するが,例外として,受遺者は,目的物の価額を弁償することにより現物返還義務を免れることができるが(民法1041条)、受遺者が民法1041条1項に基づき目的物の「価額を弁償して」返還の義務を免れるためには,価額の弁償をする旨の意思表示をしただけでは足りず,価額の弁償を現実に履行するか又はその履行の提供をしなければならないとされる(最判昭和54年7月10日民集33巻5号562頁)。受遺者が弁償すべき価額について履行の提供をした場合には,減殺請求によりいったん遺留分権利者に帰属した権利が再び受遺者に物権的に帰属する反面,遺留分権利者は受遺者に対して弁償すべき価額に相当する額の金銭の支払を求める権利を取得する(最判平成9年2月25日民集51巻2号448頁)。なお,上記のように価額弁償の履行の提供がされた場合又は現実の価額弁償がされた場合の効果として,「減殺請求によりいったん遺留分権利者に帰属した権利が再び受遺者に物権的に帰属する」ということの意味内容については,減殺請求によりいったん生じた効果をさかのぼって生じさせないこととするという効果を発生させるものであり,遺贈の効力が遡及的に復活するものと解される(最判平成4年11月16日裁判集民166号613頁)。受遺者において価額弁償の意思があることを表示した場合には,遺留分権利者は,価額弁償を訴求することができ,その価額弁償請求訴訟における価額算定の基準時は,事実審口頭弁論終結時となる(前掲最判昭和51年8月30日)。減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的である不動産の持分移転登記手続を求める訴訟において,受遺者が,事実審口頭弁論終結前に,裁判所が定めた価額により民法1041条の規定による価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には,裁判所は,同訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき価額を定めた上,受遺者がその額を支払わなかったことを条件として,遺留分権利者の請求を認容すべきである(前掲最判平成9年2月25日)。
上記のように価額弁償請求の基本的な考え方が示されているにもかかわらず,遺留分権利者が取得する価額弁償に係る権利の発生根拠や内容については,必ずしも明確になってはいなかった。この点につき,本判決は,遺留分権利者から遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求を受けた受遺者が遺贈の目的の価額について履行の提供をしていない場合であっても,遺留分権利者に対して遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をしたときには,遺留分権利者は,受遺者に対し,遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求権を行使することもできるし,それに代わる価額弁償請求権を行使することもできると解されるとした上,上記遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には,当該遺留分権利者は,遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得すると解するのが相当であると判示した。これは,上記遺留分権利者が価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をしたことに対し,当該意思表示の時点で価額弁償請求権を確定的に発生させる法律効果が生ずるとの考え方を採用したものと考えられる。そうすると,受遺者は,遺留分権利者に対し,上記意思表示の時点で,遺贈の目的の価額を弁償すべき義務を負うと考えられるから,民法1041条1項に基づく価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は,上記のとおり遺留分権利者が価額弁償請求権を確定的に取得し,かつ,受遺者に対し弁償金の支払を請求した日の翌日ということになる。なお、本判決は,遅延損害金の起算日に関して,価額弁償請求権の確定取得に加えて,受遺者に対する弁償金支払の請求が要求されているのは,価額弁償請求権は期限の定めのない債権であり,履行請求を受けた時から遅滞の責めを負うこと(民412条3項)に基づく。
 本判決の考え方からすれば,遺留分権利者が上記のとおり受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をするについては,必ずしもこれを訴訟手続においてする必要はないことになろう。
 なお,遺留分権利者としては,上記の意思表示をする場合には,①当該意思表示により,遺留分減殺によって取得した目的物の所有権や現物返還請求権をさかのぼって失い,債権である価額弁償請求権のみを取得することになるから,受遺者の無資力のリスクを負うことになること,②価額弁償の目的物の価額算定の基準時は事実審口頭弁論終結時であるから,意思表示の時点からそれまでに目的物の価額が変動する余地があることなどにも留意する必要があると考えられる。

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