重要判例解説(36);最高裁平成20年6月10日第三小法廷判決

1 事案の概要
Yは,著しく高利の貸付けにより多大の利益を得ることを企図して,Aの名称でヤミ金融の組織を構築し,その統括者として,自らの支配下にある各店舗の店長又は店員をしてヤミ金融業に従事させていた。Xは,平成12年11月から平成15年5月までの間,それぞれ,金銭を本件各店舗から借入れとして受領し,又は本件各店舗に対し弁済として交付した。そして,上記金銭の授受にかかわる利率は,年利数百%~数千%であった。
 ヤミ金融の組織に属する業者から著しく高率の利息を取り立てられて被害を受けたと主張するXが,その組織の統括者であったY対し,不法行為に基づく損害賠償を求め提訴。
 第一審及び原審は、Yについて不法行為の成立を認めつつも、貸付けとして交付を受けた金員相当額について損益相殺を認め,その額をXらの財産的損害の額から控除して,Xらの各請求を一部認容すベきものとした。

2 判旨
破棄差戻し。
「民法708条は,不法原因給付,すなわち,社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為(以下「反倫理的行為」という。)に係る給付については不当利得返還請求を許さない旨を定め,これによって,反倫理的行為については,同条ただし書に定める場合を除き,法律上保護されないことを明らかにしたものと解すべきである。したがって,反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,上記のような民法708条の趣旨に反するものとして許されないものというべきである。」「これを本件についてみると,前記事実関係によれば,著しく高利の貸付けという形をとってXらから元利金等の名目で違法に金員を取得し,多大の利益を得るという反倫理的行為に該当する不法行為の手段として,本件各店舗からXらに対して貸付けとしての金員が交付されたというのであるから,上記の金員の交付によってXらが得た利益は,不法原因給付によって生じたものというべきであり,同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象としてXらの損害額から控除することは許されない。」
 田原睦夫裁判官の意見は,給付が不法原因給付でも,被害の性質,程度,被害者の対応,加害行為の態様等から,給付を損益相殺する場合も考えうる。ただし,Xらが元利金を区別せず弁済した本件では弁済の都度損害が発生し,損益相殺の余地はないとする。

3 解説
 暴利を目的とする金銭消費貸借は,公序良俗違反の適用事例である。バブル崩壊後の1990年代後半から,多重債務者の存在を背景に,ヤミ金という新たな貸金業の形態が出現した。その特徴は,登録・未登録業者を問わず,刑事罰にもかかわらず出資法をはるかに超えた暴利での貸付け,および,暴力団を背後にした脅迫的な取立てを行うヤミ金が発生し、その反社会的な存在ゆえに、年利109.5%を超える金銭消費貸借は消費貸借自体が無効とされたり(貸金業42条1項)、貸金業法のいわゆる「みなし弁済」規定が廃止されたりするなど、貸金業法が改正されるに至っている。
 以上のような社会事情を背景に,裁判例には消費貸借を無効とした上で,貸金の返還請求も民法708条本文で退けるものが現れていた。また、ヤミ金に対する借主からの訴訟では,取立行為の違法性,さらに,貸付け自体の違法性を根拠に不法行為による損害賠償請求が行われ,これを裁判例も認めるようになっていた。不法行為に基く請求の狙いは,慰謝料請求(民法710条)と,民法724条の20年の期間であると考えられる。
このような中、札幌高判平成17年2月23日判時1916号39頁は,出資法の罰則に明らかに違反する暴利では,もはや金銭消費貸借ではなく貸金に藉口した違法行為であり民法上保護に値する財産的価値の移転があったと評価できず,元利の全額の弁済が損害であるとし,かつ,受領元本の損害からの不控除は,詐欺・強迫では過失相殺が許されないのと同様だと判示した。
 本判決は,本件では貸付行為自体が不法行為,かつ,反倫理的行為で不法原因給付に当たる,したがって,不法原因給付が法律上の保護に値しないのと同様に,元本の交付が不法行為に当たるときは,損害からの元本の損益相殺は許されない,としている。たとえ弁済を受けた元本でも,その保有を認めたのでは,ヤミ金業に実質的な損害は生じないことから、ヤミ金の不法行為の抑止という政策的目的の達成のためには,既弁済の元本も含めて損害賠償を認めるべきであるとの価値判断があると考えられる。
 本判決は,Xらの損害について,原告らがヤミ金融店舗に元利金として交付した金員の全体が損害に当たると判断しているが,ヤミ金融店舗から受けた貸付金としての金員の交付が不法原因給付に当たるため,原告らがヤミ金融店舗に対する同金員の返還債務を免れることから,原告らが受けた損害の額は上記元利金として交付した金員の額から上記貸付金として受領した金員相当額を差し引いた額であり,損益相殺の問題は生じないのではないかとの疑問も生じうる。しかし、貸付金として交付された金員についての消費貸借契約は公序良俗に反して無効であること,しかも,その金員交付は,原告らから元利金等の弁済の名目で違法に金員の交付を受けるための手段にすぎないこと,また上記のヤミ金禁圧の風潮からすれば、無効かつ違法な貸付を、損害判断においてヤミ金業者に有利な解釈をすべきではないと考えられる。
 次に,本件においてヤミ金融店舗の行った行為は社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に当たるものであるところ,民法708条の不法原因給付の規定によれば,ヤミ金融店舗から原告らに対する不当利得返還請求が認容されることもなく,原告らは貸付金相当額の返還債務を免れて利益が生じることになるが,不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺を認めてしまっては、社会的妥当性を欠く行為をした者がその不法な行為を主張して権利の回復を訴求することを許さないという不法原因給付の趣旨を没却することになるため、不法行為にも708条の趣旨を及ぼしたものと考えられる。損益相殺とは、公平な損害の分担を目的としており、不法原因給付の場合には、一方の者が利する結果になること自体を方が是認しており、不法行為においても708条の趣旨を及ぼしても、損益相殺の趣旨を損なうことにはならないと考えられる。
 なお,本判決は,ある行為が不法原因給付に当たるかどうかの基準については,「その行為が不法原因給付に当たるかどうかは,その行為の実質に即し,当時の社会生活および社会感情に照らし,真に倫理,道徳に反する醜悪なものと認められるか否かによつて決せられるべきものといわなければならない」と判示した最判昭和37年3月8日民集16巻3号500頁の考え方を基本的に踏襲しているものということができる。
 最後に,投資資金と偽り金銭を騙取された不法行為による顧客の損害賠償請求で,配当金名目で顧客に交付された金額は損益相殺できないと,最高裁は本判決を確認している(最判平成20年6月24日判事2014号68頁)。

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