重要判例解説(38);最高裁平成20年7月4日第二小法廷判決

1 事案の概要
Y県警の警察官Cらは,A・Bらの暴走行為を取り締まるために出動し,国道沿いの駐車場に停車していたところ,Aが運転しBが同乗した本件自動二輪車が国道上を走行してきたため,Cはこれを停止させる目的で,本件パトカーを国道上に中央線をまたぐ形で斜めに進出させ,本件自動二輪車が走行してくる車線を完全にふさいだ状態で停車させた。付近の道路は暗く,本件パトカーは前照灯及び尾灯をつけていたが,赤色の警光灯はつけず,サイレンも鳴らしていなかった。接近してきたAは,駐車場に停車中のもう一台の小型パトカーに気付き,急加速して通過しようとしたが,その際に,小型パトカーに捕まっているかもしれない友人の様子をうかがおうとしてわき見をしたため,前方の本件パトカーの発見に遅れて衝突し,Bが死亡した。Bの父母Xらは相続人として,Y県に対し,パトカーの運行供用者として自賠法3条に基づいて損害賠償を求めた。
 原審は,本件パトカーの運行供用者であるYに自賠法3条に基づく損害賠償責任を認めた上で,Aには前方注視義務違反及び制限速度違反の過失が,Bにはヘルメット着用義務違反及びAとともに暴走行為をしてパトカーに追跡される原因を作ったという事情があることを考慮し,A:B:Cの過失割合を6:2:2としたが,本件はBとの関係ではAとCの共同不法行為であり,AB間に身分上,生活関係上の一体性はないから,事故の直接の原因となった前方注視義務違反等のAの過失を被害者側の過失として考慮することはできないと説示して,Yに対し,Aと連帯してBに発生した損害の8割の賠償を命じた。

2 判旨
破棄差戻し。
「本件運転行為〔小型パトカーを発見してからのAの運転行為を指す〕に至る経過や本件運転行為の態様からすれば,本件運転行為は,BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず,上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。」「したがって,Yとの関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては,公平の見地に照らし,本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができる」と判示し,「以上の見解の下にBとCとの過失割合等につき更に審理を尽くさせるため」,本件を原審に差し戻した。

3 解説
 民法722条2項によれば,損害の発生・拡大に被害者自身が関与していた場合には,その過失を理由に,その賠償請求を減額できる。これに対し,被害者以外の者が損害の発生・拡大に関与している場合には,原則として,その者の過失を理由に被害者の損害賠償請求を減額することはない。しかし,判例は,損害の発生・拡大に関与した者が被害者と一定の関係にある場合には,その者の過失をもって,被害者の加害者に対する損害賠償請求を減額している(「被害者側の過失」による過失相殺)。本件でも、A運転・B同乗の車両とC運転の車両とが,A,C双方の過失により衝突し,Bが損害を受けた場合には,AとCは共同不法行為者としてBに生じた損害の全額につき損害賠償責任(不真正連帯債務)を負うのが原則であるが,AB間に一定の関係が存在する場合は,被害者側の過失としてAの過失が考慮され,その結果,民法719条の例外としてCの負う損害賠償責任が分割責任とされることがある。
 最判昭和51年3月25日民集30巻2号160頁は,夫の運転する自動車に同乗する妻が第三者と夫の過失の競合による交通事故で負傷した場合に,「被害者の過失には,被害者本人と身分上,生活関係上,一体をなすとみられるような関係にある者の過失,すなわちいわゆる被害者側の過失をも包含するものと解される。」とした。その根拠は,「民法722条2項が不法行為による損害賠償の額を定めるにつき被害者の過失を斟酌することができる旨を定めたのは,不法行為によって発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものと考えられる」ことにある。そして,「身分上,生活関係上,一体をなす者」は,経済的にも一体を成し,両者間で損害賠償請求がされることは考えにくいから,被害者側の過失を考慮し実質的に分割責任とすることにより,求償関係を一回的に解決することができるという合理性もあると説示した。
 その後,最高裁判例は,職場の同僚(最判昭和56年2月17日裁判集民132号149頁),恋人同士(最判平成9年9月9日裁判集民185号217頁)については被害者側の過失を否定し,内縁の夫婦(最判平成19年4月24日裁判集民224号261頁)については肯定した。
 被害者側の過失を肯定した判例は,被害者と加害者との間に経済的一体性(財布は一つ)が認められる場合のものである。このような場合は,被害者が加害者に対して損害賠償請求をすることは実質的に考えにくいので,共同不法行為の原則である連帯責任を解除し,分割責任とすることが正当化されるものであろう。これに対し,被害者と加害者が親しい関係にある場合であっても,経済的一体性が認められないときは,最高裁は被害者側の過失を考慮しないという立場に立っているように思われる。
 本件においても,AB間に経済的一体性はないからAの本件運転行為における過失を被害者側の過失として考慮しないとした原審の判断は,上記の最高裁判例に沿ったものである。本件のように,運転者が友人・同僚である場合には,大多数の下級審裁判例が,被害者と身分上,生活上の一体の関係にないことを理由に,被害者側の過失による減額を否定している。
しかし,他方で,下級審裁判例は,一定の場合には,被害者側の過失による減額を認めている。①グループでの自動車旅行中の事故(東京地判昭和44年11月28日判タ242号199頁など),②同乗被害者が車の所有者であった場合(名古屋地豊橋支判昭和45年5月25日交民集3巻3号780頁など),③被害者の指示で運転を交替していた場合(東京地判昭和42年5月24日判時486号59頁など),④共同での,しかも主に被害者のための運行であった場合(水戸地判昭和53年2月6日交民集11巻1号189頁)などである。これらの裁判例が被害者側の過失による減額を認めた理由は,判決文からは明確でないが、裁判例が賠償請求を運転者の過失により減額するのは,被害者が同乗者として運行から利益を得ていただけでなく,多少とも積極的に運行に関与していた場合である。本判決の,運転行為が加害者(=友人)と被害者の「共同暴走行為の一環を成す」という判示は,損害を発生させた危険な活動に同乗者が運転者と共に参加していたことを,被害者側の過失による減額の根拠にする)を定式化したものということができると考えられる。
他方,運転者が被害者の被用者である場合には,「使用者・被用者間の指揮監督関係」「事業執行性」などを認定したうえで,運転者の過失を理由に減額している(大判大正9年6月15日民録26輯884頁)。ここでは,使用者が被用者の活動(=運行)を支配していることを減額の前提としている。
以上によれば,同乗者被害型では,被害者(=同乗者)が,①運転者と身分上,生活上一体の関係にあるか,②運行を指揮監督している場合に,運転者の過失を被害者側の過失として減額しており,本判決は,指揮監督関係のない場合にも,「共同暴走行為の一環」があれば,①②の関係がなくても減額の対象になるとしたものということができる。
なお、「被害者側の過失」の事例には,同乗者被害型のほかにも,幼児の損害賠償請求において監護者の過失により減額されることがあるが、最判昭和39年6月24日民集18巻5号854頁によれば,民法722条2項により被害者の過失を斟酌するには,被害者である未成年者が事理弁識能力を備えていれば足り,責任能力を備えていることを要しないとされていることにも留意する必要がある。事理弁識能力を備えていない場合には、被害者側の過失という理論が、公平な負担分担を果たすために、重要な意義を有してくる。

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