最新判例紹介(2);最高裁判所平成22年3月26日第一小法廷判決

1 事案
 X株式会社を退職した元従業員Yが在職中に入手した顧客情報を利用して、当初は個人事業としてその後は会社を設立して、X株式会社の複数の顧客との間で取引を行い、その結果、X株式会社はその複数の顧客からの受注が激減して、不法行為による損害賠償を提起した事案です。

2 最高裁判所の判旨
破棄自判。
(ⅰ)原判決理由中の一般命題に当たる部分を、「元従業員等の競業行為が,社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元雇用者の顧客を奪取したとみられるような場合には,その行為は元雇用者に対する不法行為に当たるというべきである。」として支持したが、適用のあり方については次のように判断して原判決を破棄しX株式会社の控訴を棄却した。
(ⅱ)「Y1は,退職のあいさつの際などに本件取引先の一部に対して独立後の受注希望を伝える程度のことはしているものの,本件取引先の営業担当であったことに基づく人的関係等を利用することを超えて,被上告人の営業秘密に係る情報を用いたり,被上告人の信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったことは認められない。また,本件取引先のうち3社との取引は退職から5か月ほど経過した後に始まったものであるし,退職直後から取引が始まったAについては,前記のとおり被上告人が営業に消極的な面もあったものであり,被上告人と本件取引先との自由な取引が本件競業行為によって阻害されたという事情はうかがわれず,上告人らにおいて,上告人Y1らの退職直後に被上告人の営業が弱体化した状況を殊更利用したともいい難い。さらに,代表取締役就任等の登記手続の時期が遅くなったことをもって,隠ぺい工作ということは困難であるばかりでなく,退職者は競業行為を行うことについて元の勤務先に開示する義務を当然に負うものではないから,上告人Y1らが本件競業行為を被上告人側に告げなかったからといって,本件競業行為を違法と評価すべき事由ということはできない。上告人らが,他に不正な手段を講じたとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。
以上の諸事情を総合すれば,本件競業行為は,社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず,被上告人に対する不法行為に当たらないというべきである。なお,前記事実関係等の下では,上告人らに信義則上の競業避止義務違反があるともいえない。」

3 解説
本最高裁判決は、退職した従業員が在職中に入手した顧客情報を利用してその顧客と退職会社と同種の取引(競業行為)を行い退職会社に損害をあえた事案について最高裁判所が初めて判断を示したものです。
在職中に取得した顧客情報を利用して、退職後に元従業員が退職会社と同種の取引(競業行為)を行い退職会社に損害を与える事案について、下級審判決や学説は、競業避止義務について、退職後は退職時に競業禁止の合意をしなければ、原則として競業避止義務はないとしつつ、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した場合には不法行為が成立するとしています。この判断枠組み自体は本最高裁判決でも踏襲しております。
しかし、この判断枠組みの適用、当てはめにおいて、従来の下級審判決とは異なる判断を示しています。すなわち、東京地方裁判所平成13年9月18日判決は「労働者が元の使用者のために労務を提供する機会に得た元の使用者の技術、ノウハウ、情報を利用して、元の使用者と競業行為を行って利益を上げた場合においては、自由競争の範囲を逸脱しているとして、その競業行為が違法と評価される場合があるというべきであり、その違法性については、その業種や営業主における技術、ノウハウ、情報等の重要性や労働者によるそれらの利用態様及び程度、労働者が退職に至った経緯等諸般の事情を考慮して個別具体的に判断すべきである」「対等な競業行為を行ったというよりも、むしろ従業員であった被告らが雇用主の原告の取引先のみを奪うことを企図して取引先を勧誘したというものであるから、その背信的な事情をも考慮すれば、もはや自由競争の範囲を逸脱したといわざるをえず、違法の評価を免れない」と判示して、退職後の競業行為について不法行為の成立を認めています。
東京地方裁判所平成5年1月28日判決も「労働契約継続中に獲得した取引の相手方に関する知識を利用して、使用者が取引継続中のものに働きかけをして競業を行うことは許されない」「意図的に原告の営業上の秘密を獲得する目的で原告(もしくはその子会社)に入社したものと推認されるところであり、その義務違反の態様は極めて悪質」と判示して退職後の競業について不法行為の成立を認めています。
これに対して、本最高裁判決は、在職中に入手した顧客情報を利用すること自体は許容されるとし、退職直後の競業行為であっても、退職会社が営業に消極的であるなどの事情があり、自由な取引を阻害した事情がなければ許容され、また、退職によって退職会社が弱体化した状況をことさら利用したとは言えない場合は許容されるとし、さらに、退職会社に競業を開始した義務を負うものではないと判示しました。この結果、顧客情報の利用による競業行為が不法行為が成立する場合を限定的に判断したものとして今後下級審の判断に大きな影響を及ぼすものと考えられます。

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