最新判例解説(9);最高裁判所平成23年3月24日判決

1 事案
XはYとの間で2年間家賃1か月9万6000円とする賃貸借契約を締結した。同契約には、Xが建物を明け渡した場合には、Yが契約締結時からの経過年数に応じた金額を保証金から控除した残額を返還し、なお、未払い家賃がある場合にはその残額から未払い家賃を控除した残額を返還するという敷引特約が付されていた。Xはこの敷引き特約が消費者契約法10条に違反し無効であるとして訴訟を提起した。1審では、敷引き特約は消費者契約法に違反しないとしてXの請求を棄却した。原審も敷引き金額も不当に高額ではなく、他の賃借物件と比較して契約締結を熟慮できる状況にあったとして、消費者契約法10条に違反しないとしてXの請求を棄却した。

2 判決の判旨
上告棄却。
(ⅰ)消費者契約法10条前段の要件について
「本件特約は、敷金の性質を有する本件保証金のうち一定額を控除し、これを賃貸人が取得する旨のいわゆる敷引特約であるところ、居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、契約当事者間にその趣旨について別異に解すべき合意等のない限り、通常損耗等の補修費用を賃借人に負担させる趣旨を含むものというべきである。本件特約についても、本件契約書19条1項に照らせば、このような趣旨を含むことが明らかである。ところで、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであるから、賃借人は、特約のない限り、通常損耗等についての原状回復義務を負わず、その補修費用を負担する義務も負わない。そうすると、賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む本件特約は、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものというべきである。」
(ⅱ)消費者契約法10条後段の要件について
「賃貸借契約に敷引特約が付され、賃貸人が取得することになる金員(いわゆる敷引金)の額について契約書に明示されている場合には、賃借人は、賃料の額に加え、敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって、賃借人の負担については明確に合意されている。そして、通常損耗等の補修費用は、賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても、これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には、その反面において、上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって、敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。また、上記補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは、通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から、あながち不合理なものとはいえず、敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。
もっとも、消費者契約である賃貸借契約においては、賃借人は、通常、自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上、賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからすると、敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には、賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に、賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。
そうすると、消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」
 本件では、「敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。」

3 解説
敷引き特約は、消費者契約法施行後は同法10条に違反しないかが下級審で争われ、敷引き金額や率の高さ、通常損耗等補修費用の二重負担の発生などを理由に消費者契約法10条に違反し無効とする下級審判決が多数を占めた。他方で、敷引き特約の認識、敷引き金額・率が高くないことや他物件の選択可能性を理由に敷引き特約は消費者契約法に違反しないとするか下級審判決もあった。本最高裁判所判決は、下級審で判断が分かれていた敷引き特約について敷引き特約は敷引金が高額にすぎなければ有効と判断した点で実務上大きな意味をもっています。

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