最新判例解説(13);最高裁判所平成22年4月8日判決

1 事案
①事件
Xら(原告・控訴人・被上告人)は,インターネット上の電子掲示板にされた匿名の書込みによって権利を侵害されたとして,その書込みを行った者(以下,「本件発信者」という)に対して損害賠償請求権を行使したいと考えている。
そこで,そのために,本件発信者にインターネット接続サービスを提供したY(NTTドコモ。被告・控訴人・上告人)に対して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下,「プロバイダ責任制限法」または単に「法」という)4条1項に基づいて,本件発信者の氏名・住所等の情報公開を請求した。
 第1審(東京地判平成20年9月19日)は,Yのような経由プロバイダ(発信者と掲示板などのウェブサーバー間の情報を媒介すプロバイダ)は,「特定電気通信役務提供者」や「開示関係役務提供者」に該当しないとして請求を棄却した。
 しかし,原審(東京高判平成21年3月12日)は,Yが「開示関係役務提供者」に該当するとして,請求を一部認容した。
そこで,Yは,自分は電子掲示板の不特定な閲覧者が受信する電気通信の送信自体へは関与しない経由プロバイダであるから,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(特定電気通信)の用に供する設備を用いて,他人の通信を媒介しまたは他人の通信の用に供することで,電気通信の始点として送信を行う者である「特定電気通信役務提供者」(法2条3項)には当たらない旨主張して上告受理を申し立てた。

②事件
X(原告・控訴人・被上告人)は学校法人A学園の学園長である。
平成18年9月以降,インターネット上の電子掲示板に,「A学園part2」というタイトルのスレッドにX及びA学園についての様々な書き込みが行われ,平成19年1月,「気違いはどうみてもA学長」との書き込みがあった。この書き込みが,電気通信事業を営む株式会社Y(KDDI。被告・被控訴人・上告人)が提供するインターネット接続サービスを利用してされたものであったことから,同年2月末ごろ,Xは,Yに対し,「本件書込みのきちがいというS表現は,激しい人格攻撃の文言であり,侮辱に当たることが明らかである」旨の理由を付した上で,法4条1項に基づいて,本件書込み発信者の氏名・住所・電子メールアドレスなどの開示を請求した。
これに対して,Yは,書込発信者に意見を紹介したところ情報開示不同意の回答があり,また,本件書込みによってXの権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないため,開示請求には応じられない旨回答した。
 第1審(東京地判平成20年6月17日)は,本件書込みによるXの権利侵害が明らかとは言えないとして,Xの請求をいずれも棄却した。
 これに対して,原審(東京高判平成20年12月10日)は,Yが法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当するとした上で,対象となる個人を特定できる状況下で「気違い」と指摘することは社会生活上許される限度を超えて相手方の権利(名誉感情)を侵害するものであることが明らかであるとして,Yが開示請求に応じなかったことには重大な過失があるとした。

2 判旨
①事件
上告棄却。
「法2条......の各規定の文理に照らすならば,最終的に不特定の者によって受信されることを目的とする情報の流通過程の一部を構成する電気通信を電気通信設備を用いて媒介する者は,同条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に含まれると解するのが自然である。
また,法4条の趣旨は,特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には,これにより他人の権利の侵害が容易に行われ,その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し,匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという,他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ,特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバシー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される。本件のようなインターネットを通じた情報の発信は,経由プロバイダを利用して行われるのが通常であること,経由プロバイダは,課金の都合上,発信者の住所,氏名等を把握していることが多いこと,反面,経由プロバイダ以外はこれを把握していないことが少なくないことは,いずれも公知であるところ,このような事情にかんがみると,......最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダとの間の通信を媒介する経由プロバイダが法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当せず,したがって法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当しないとすると,法4条の趣旨が没却されることになるというべきである。
そして,上記のような......解釈が,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限について定めた法3条や通信の検閲の禁止を定めた電気通信事業法3条等の規定の趣旨に反するものでないことは明らかである。......最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダとの間の通信を媒介する経由プロバイダは,法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当すると解するのが相当である。」

②事件
一部破棄自判,一部上告棄却。
「開示関係役務提供者は,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど当該開示請求が同条1項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し,又は上記要件のいずれにも該当することが一見明白であり,その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合にのみ,損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。
 ......本件書き込み......は,「気違い」といった侮辱的な表現を含むとはいえ,Xの人格的価値に関し,具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく,被上告人の名誉感情を侵害するにとどまるものであって,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めてXの人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない。そして,本件書き込み中,Xを侮辱する文言は上記の「気違い」という表現の一語のみであり,特段の根拠を示すこともなく,本件書き込みをした者の意見ないし感想としてこれが述べられていることも考慮すれば,本件書き込みの文言それ自体から,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず,本件スレッドの他の書き込みの内容,本件書き込みがされた経緯等を考慮しなければ,Xの権利侵害の明白性の有無を判断することはできないものというべき〔ず〕......そのような判断は,裁判外において本件発信者情報の開示請求を受けたYにとって,必ずしも容易なものではないといわなければならない。
そうすると......,裁判外におけるXからの本件発信者情報の開示請求に応じなかったことについては,Yに重大な過失があったということはできないというべきである。」
「なお,発信者情報の開示請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。」

3 解説
①事件判決は,「経由プロバイダ」が,法2条3号の「特定電気通信役務提供者」に該当し,法4条1項の「開示関係役務提供者」として発信者情報開示義務を負う場合があることを示したものである。
②事件判決は,情報開示に応じなかった開示役務提供者が損害賠償責任を負う場合の用件である「重大な過失」(法4条4項)の判断基準について,最高裁が初めて見解を示したものである。

アクセス

千葉駅東口徒歩4分

千葉市中央区新町18-12
第8東ビル3階(地図はこちら

交通

  • JR千葉駅東口徒歩4分
  • 京成千葉駅東口徒歩3分
  • 千葉都市モノレール千葉駅中央口徒歩4分

債務整理の無料相談(24時間受付)

借金問題で弁護士をお探しの場合

相談は何度でも無料です

無料法律相談(24時間受付)をご利用下さい

刑事事件の無料相談(24時間受付)

逮捕・起訴されて弁護士をお探しの場合

刑事弁護はスピードが勝負

無料法律相談(24時間受付)をご利用下さい

離婚法律相談

皆様と弁護士と二人三脚で問題の解決へ進みます

離婚協議書作成とメールによる話し合いサポート

相続法律相談

新橋本店との連携で専門性の高い案件にも対応

千葉を起点とする沿線都市に出張相談可(日当+交通費をいただきます)

法人破産無料法律相談

  • 新橋本店との連携で専門性の高い案件にも対応
  • 会社の清算について、倒産手続きについてサポート

建物明渡請求法律相談

アパート・賃貸マンションなどの建物明け渡し請求についてサポート

債権回収法律相談

貸金債権回収、請負代金回収、売買代金回収についてサポート