最新判例解説(14);①最高裁判所平成22年9月13日判決②最高裁判所平成22年10月15日判決

1 事案
①事件(最高裁判所平成22年9月13日判決)
X(原告・控訴人=被控訴人・上告人=被上告人)は,平成14年3月6日,Y(被告・控訴人=被控訴人・上告人=被上告人)が運転・所有する自動車に衝突され,右大腿骨開放性骨折等の障害を受けた結果,右大腿を切断し,左膝複合靱帯損傷の後遺障害が
生じ,合計9873万円余の損害を受けた。
Xは,自賠責保険金及びYの自動車保険契約に基づく任意保険金の支払いを受けた。この際に,後者については損害金元本に充当し,これによって消滅する元本と対応する遅延損害金については,支払債務を免除する旨の黙示の合意をした。
この他にも,Xは,労働者災害補償保険法(以下,「労災保険法」とする)に基づく療養給付及び休業給付(以下,これらをまとめて「本件各保険給付」という)の支給を受けた。
さらに,Xは,労災保険法に基づく障害年金,国民年金法に基づく障害基礎年金,及び,厚生年金保険法に基づく障害厚生年金(以下,これらをまとめて「本件各年金給付」という)の支給を受けまたは支給を受けることが確定した。
原審(東京高判平成19年11月29日)は,⑴本件各保険給付については,療養費用や休養損害等の損害金(元本)が生じる度に支払われ,損害金元本に填補されるから填補された損害金元本について填補の日までの遅延損害金は生じていないとした。
これに対して,⑵本件各年金給付については,まずは填補の日までに生じた遅延損害金に充当し,次に元本に充当するとした。

②事件(最高裁判所平成22年10月15日判決)
X(原告・控訴人・上告人)は,平成16年2月8日,バイクで通勤途中に,Y1(被告・被控訴人・被上告人)の運転する自動車に接触され,右脛骨・腓骨・右橈骨骨折,右足関節切創等の傷害を受けた結果,右手関節・右足関節等に機能障害の後遺障害が残り,5897万円余の損害を受けた。
Xは,労災保険法の療養給付391万円,及び,Y2(Y1が運転していた自動車の運行供用者。被告・被控訴人被上告人。)の自動車保険契約に基づく任意保険金10万円の支払を受けた。これにより,治療費等の損害の元本は填補され,控除することを認めている。この他に,Xは,労災保険法の休業給付106万円余,障害一時金22万,任意保険金(上記治療費は除く)121万円余,及び,自賠責保険金819万円の支払を受けた。
 第1審(大阪地判平成21年2月16日)・原審(大阪高判平成21年7月29日)はいずれも,⑴任意保険金(治療費除く)及び自賠責保険金については,各支払日までに生じた遅延損害金にまず充当して,残額を損害金元本に充当するとした。
これに対して,⑵休業給付及び障害一時金については,損害のうち逸失利益に相当する部分のみを補償の対象とするものであって遅延損害金を対象としてはいないとして,遅延損害金に充当することをせず,X損害のうちの逸失利益の元本と損益相殺的な
調整をした。
2 判旨 
①事件
Xの上告を棄却。Yの上告に基づき一部破棄自判(原判決一部変更:⑵の判断を⑴と同様のものに変更),一部棄却。
ⅰ ①「被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を......加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要がある(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)。そして,被害者が,不法行為によって傷害を受け......後遺障害が残った場合において,労災保険法に基づく各種保険給付や公的年金制度に基づく各種年金給付を受けたときは,......それぞれの制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額をてん補するために支給されるものであるから,......てん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべき......である。」
②「療養給付は,治療費等の療養に要する費用をてん補するために,休業給付は,負傷又は疾病により労働することができないために受けることができない賃金をてん補するために,それぞれ支給される」という「本件各保険給付の趣旨目的に照らせば,本件各保険給付については,これによるてん補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する関係にある治療費等の療養に要する費用又は休業損害の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり,これらに対する遅延損害金......との間で上記の調整を行うことは相当でない。」
「また,......労働者ないし被保険者が,負傷し,又は疾病にかかり,なおったときに障害が残った場合に,労働能力を喪失し,又はこれが制限されることによる逸失利益をてん補するために支給される」という「本件各年金給付の趣旨目的に照らせば,本件各年金給付については,......てん補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する関係にある後遺障害による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり,これに対する遅延損害金......との間で上記の調整を行うことは相当でない。」
ⅱ ①「そして,不法行為による損害賠償債務は,不法行為の時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく遅滞に陥る......が(......[5]最高裁昭和37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),被害者が不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合においては,不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害につき,不確実,不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に,不法行為の時におけるその額を算定せざるを得ない。その額の算定に当たっては,一般に,不法行為の時から損害が現実化する時までの間の中間利息が必ずしも厳密に控除されるわけではないこと,......労災保険法に基づく各種保険給付や公的年金制度に基づく各種年金給付は,それぞれの制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額をてん補するために,てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されていることなどを考慮すると,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,これらが支給され,又は支給されることが確定することにより,そのてん補の対象となる損害は不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが,公平の見地からみて相当というべきである。」
②「本件各保険給付及び本件各年金給付は,その制度の予定するところに従って,てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給され,又は支給されることが確定したものということができるから,そのてん補の対象となる損害は本件事故の日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当である。」
ⅲ 「以上によれば,原審の......⑴の判断は正当として是認することができ,......⑵の判断には......違法があり,......Yの論旨は理由がある。......[6]最高裁平成16年(受)第525号同年12月20日判時1886号46頁は,事案を異にし,本件に適切でない。」

②事件
上告棄却
①判決の一般論と同様の判示をして,本件休業給付・障害一時金による填補の対象となるXの損害について,本件事故の日に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすべきであるとした。
なお,法廷意見に賛成し,前記[6]判決を直ちに変更する必要はないとしつつ,労災保険法や公的年金制度に基づく「遺族年金給付」についても「本件の場合と同じ考え方を採る余地がある」として,同判決を変更するのが相当か,「今後,さらなる検討を要する」旨を述べる千賀勝美裁判官の補足意見がある。

3 解説
不法行為の加害者が被害者に対して損害賠償債務の全部を消滅させるには足りない弁済をした場合,特段の合意が無い限りは,民法491条1項により遅延損害金から充当されることになる。本件判例も,自賠責保険金や任意保険金についえはこのような扱いをしている。
これに対して,社会保険給付については,直接な目的が損害の賠償ではなく,事故を原因として生じた特定の損害に対応してそれを填補するために支給されるものである点を重視して,事故によって生じた利益に類するものとして,損益相殺的な調整を行った。

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